東京高等裁判所 平成10年(行ケ)259号 判決 1999年4月13日
東京都新宿区百人町2丁目23番24号
原告
メリードゥビューティプロダクツ株式会社
代表者代表取締役
津野田正弘
訴訟代理人弁理士
光藤覚
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
江崎静雄
同
小池隆
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 請求
特許庁が平成1年審判第14044号事件について平成10年6月30日にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和62年10月16日、「ヘアエステ」と片仮名文字で横書きした構成からなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第4類「化粧品、その他本類に属する商品」(ただし、平成元年5月12日付け手続補正書により「頭髪用化粧品」と補正)として商標登録出願(昭和62年商標登録願第116789号)をしたが、平成元年7月5日拒絶査定をされたので、同年8月26日拒絶査定不服の審判を請求した。
特許庁は、この請求を平成1年審判第14044号事件として審理した結果、平成10年6月30日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年7月25日原告に送達された。
2 審決の理由
審決の理由は、別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、本願商標をその指定商品「頭髪用化粧品」に使用するときには、これに接する取引者、需要者は、本願商標をして商品の品質、用途を表示したものと認識するに止まるものであって、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、上記商品以外の商品に使用するときには、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるものというのが相当であり、しかも、請求人(原告)の提出した証明書のみでは、商標法3条2項の要件を具備しているものとは認められないから、本願商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとした原査定を取り消すことはできないと判断した。
第3 審決の取消事由
1 審決の認否
審決の理由1(本件(本願)商標。審決書2頁3行ないし11行)及び同2(原査定の理由。審決書2頁13行ないし21行)は認め、同3(当審(審決)の判断。審決書3頁1行ないし5頁7行)は争う。
2 取消事由
審決は、商標法3条1項3号についての判断を誤り(取消事由1)、商標法3条2項についての判断を誤り(取消事由2)、法条の適用を誤ったものであるから(取消事由3)、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(商標法3条1項3号についての判断の誤り)
審決は、「本願商標は、「ヘアエステ」の文字を普通に用いられる方法をもって書してなるものであるから、これより、「頭髪の美容、髪の毛の美容」の如き意味合いを容易に看取させるものと判断するのが相当である。」(審決書4頁4行ないし7行)、「本願商標をその指定商品「頭髪用化粧品」に使用するときには、これに接する取引者、需要者は、本願商標をして頭髪用の商品であること、つまり、商品の品質、用途を表示したものと認識するに止まるものであ(る)」(審決書4頁13行ないし16行)と認定、判断するが、誤りである。
<1> 本願商標は、「ヘアエステ」と同書同大同間隔に書してなる一種の造語であり、これを「ヘア」と「エステ」に分離し、「ヘア・ケア」や「ヘア・カラー」と同一視して判断することはできない。
<2> 本願出願時(昭和62年10月)において、「エステティック」が「エステ」と略称されていた事実はない。
「エステティック」の文字は、昭和50年代後半にフランス語から日本に輸入され、美容、美容術等の意味で用いられるようになったが、本願商標の出願時には、「エステ」と略称されていた事実はないものである。
<3> 「女性セブン 昭和63年2月4日号」(甲第11号証)の記事に、「まだ日本では馴染みの薄いヘアエステですが、パリではの人気は上々とか。」との記載があり、この記載からしても、「ヘアエステ」の語は、昭和63年から平成元年、2年にかけて、我が国において、頭髪の美容、髪の毛の美容の意味を容易に看取させる用語といえる状態にはなかったものである。
<4> 被告は、本願出願後以後に刊行された乙第12ないし第22号証に基づく主張をするが、少なくとも本件のように10年近くも審理されずに放置されたものについて、商標法3条の登録要件の有無の判断時期を査定時と解することはできず、本願商標の出願時(昭和62年10月)又は本願商標の拒絶査定時(平成元年7月)を判断時期と解すべきであり、その後に刊行された文献を判断資料とすることは許されないものである。
(2) 取消事由2(商標法3条2項についての判断の誤り)
審決は、「これらの証明書に書された証明事項のみでは、実際に使用している商標が如何なる態様なのか、実際に使用している商品がどのくらい生産され、譲渡されたのか等が、具体的に把握できないから、これら証明書のみによっては商標法第3条第2項の要件を具備しているものとは認められない」(審決書5頁2行ないし7行)と判断するが、誤りである。
本願商標を付した商品の需要者は主として女性であり、雑誌等の広告宣伝を介して商品の特性を理解し購入するものであるところ、原告は、昭和62年から、雑誌「しんびよう」、雑誌「TOMOTOMOともとも」、雑誌「全美商連」(いずれも新美容出版株式会社発行)、雑誌「ヘアモード」(株式会社女性モード社発行)及び雑誌「ニューヘアー」、「全国理美容新聞」(いずれも株式会社全国理美容新聞社発行)において、本願商標を付した商品の広告をした(甲第7号証)。上記3社は、この種の雑誌としては最大部数を発行している出版社である。
これらの広告による本願商標の結果、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるようになったものである。
(3) 取消事由3(法条適用の誤り)
審決は、本願商標を「上記商品(頭髪用化粧品)以外の商品に使用するときには、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある」(審決書4頁18行、19行)、「したがって、本願商標が商標法・・・第4条第1項第16号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない」(審決書4頁21行ないし23行)と認定、判断するが、誤りである。
本願商標の指定商品は「頭髪用化粧品」に限定されたものであり、その指定商品である「頭髪用化粧品」以外の商品に使用するはずがないものである。
したがって、審決には、法条の適用を誤った違法がある。
第4 審決の取消事由に対する認否及び反論
1 認否
審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1(商標法3条1項3号についての判断の誤り)について
<1> 本願商標の構成のうち、「ヘア」の文字は、「頭髪、髪の毛」の意味を有する英語の「hair」に由来するものと理解されるものである。
<2> 「エステティック」の文字は、美容に関する業界において、「全身を対象とした美容、全身美容法」等の意味合いを表すものとして使用されているが(乙第1号証)、「エステティック」の文字は、本願出願前より「エステ」と略称され、使用されていたものである(乙第2ないし第10号証)。
<3> さらに、審決時には、既に、「頭髪の美容、髪の毛の美容」のごとき意味合いを容易に理解、把握させるものとして「ヘアエステ」の文字が使用されていたものである(乙第11ないし第22号証)。
<4> したがって、本願商標は、「ヘアエステ」の文字を普通に用いられる方法をもって書してなるものであるから、「頭髪の美容、髪の毛の美容」等の意味合いを表し、商品の品質、用途を表示するに止まるものである。
(2) 取消事由2(商標法3条2項についての判断の誤り)について
原告が提出した証明書(甲第7号証)のみでは、本願商標の使用態様等が具体的に把握できず、原告の使用する商品がどの程度生産され、販売されたかも定かではない。また、原告の広告が載せられた雑誌の販売部数を認めるべき証拠もない。
したがって、甲第7号証の証明書のみをもってしては、本願商標が商標法3条2項の要件を具備することにはならない。
(3) 取消事由3(法条適用の誤り)について
審決に商標法4条1項16号を適用した点に誤りがあったとしても、商標法3条1項3号の適用には何ら誤りはないから、上記誤りは審決の結論に影響しないものである。
理由
1 取消事由1(商標法3条1項3号についての判断の誤り)について
(1)<1> 「ヘア」は、髪の毛を意味する英語として我が国において広く知られていると認められる。
<2> さらに、乙第1ないし第11号証及び弁論の全趣旨によれば、本願出願時(昭和62年10月)における我が国において、「エステティック」は、「体全体の美容」の意味も有する語であることが一般に知られており、しかも、このような意味を有する「エステティック」は、広く「エステ」と略称されていたこと、及び昭和60年発行の美容雑誌の広告においても、既に「髪にエステの時代」、「ヘアにエステしましょう。」、「ヘアエステシリーズ」などの言葉が用いられていることが認められる。
<3> そうすると、本願商標「ヘアエステ」は、本願出願時においても、本願商標の指定商品である頭髪用化粧品の取引者、需要者によって、髪の毛の意味を有する「ヘア」と体全体の美容の意味を有する「エステ」が結合したものと理解され、「頭髪の美容、髪の毛の美容」のような意味を有する語と理解されるものと認められる。
この認定に反する原告の主張は採用することができない。
<4> したがって、本願商標をその指定商品「頭髪用化粧品」に使用するときには、これに接する取引者、需要者は、本願商標を商品の品質、用途を表示したものと認識するに止まり、本願商標は、自他商品の識別標識としての機能を有さないものである。
(2) よって、原告主張の取消事由1は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
2 取消事由2(商標法3条2項についての判断の誤り)について
原告は、甲第7号証に基づき、昭和62年から雑誌「しんびよう」等に本願商標を付した商品の広告をしたから、本願商標は商標法3条2項の要件を具備する旨主張する。
(1) しかしながら、甲第7号証に添付された証明書のとおりの広告がされたとしても、その事実から、本願商標が使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとなったものと認めるには足りず、他にこの点を認めるに足りる証拠はない。
(2) したがって、本願商標は商標法3条2項の要件を具備しているものとは認められない旨の審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(法条適用の誤り)について
前記1、2のとおり、商標法3条1項3号及び3条2項についての判断に誤りがない以上、商標法4条1項16号の点についての審決の判断に誤りがあるとしても、その誤りは審決の結論に影響しないものであるから、法条適用の誤りをいう原告主張の取消事由3は理由がない。
4 結論
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年2月25日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
理由
1 本件商標
本願商標は、「ヘアエステ」の片仮名文字を書してなり、第4類「化粧品、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和62年10月16日に登録出願されたものであるが、その後、指定商品については、平成1年5月12日付け手続補正書をもって「頭髪用化粧品」に補正された。
そして、本願商標は、平成8年7月29日付け出願変更届をもって登録第2692209号商標、登録第3174318号商標及び登録第3174320号商標のそれぞれと連合する商標に出願変更されたものである。
2 原査定の理由
原査定は、「本願商標は化粧品の一用途を表す文字と認められる頭髪美容(術)の意の『ヘアエステ』の文字よりなるから、これを指定商品中『頭髪用化粧品、毛髪脱色剤』等に使用する場合は自他商品の識別標識として機能するものとは認められない。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外に使用するときには商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する」として、本願を拒絶したものである。
3 当審の判断
本願商標は、「ヘアエステ」の文字を書してなるところ、その構成中の「ヘア」の文字は、「頭髪、髪の毛」の意味を有する英語の「hair」の文字に由来するものであって、他の文字と組み合わされて、例えば、「髪の手入れ」の意味合いを表すものとして「ヘア・ケア」、「髪染め」の意味合いを表すものとして「ヘア・カラー」のように使用されている。
ときに、「エステティック」の文字は、「美学の、美的」の意味を有するフランス語の「esthetique」の文字、若しくは、ドイツ語の「Asthetik」の文字に由来するものであるところ、美容を専門とする分野において、「エステティック」の文字は、「全身を対象とした美容、全身美容法」等の意味合いを表すものとして使用されており、そして、上記意味合いにおいて、この「エステティック」の文字は、本願商標の登録出願前から、単に、「エステ」と略称され、「エステ」と書され使用されているところである。
しかして、「エステティック」文字は、他の文字と組み合わされて、例えば、「体全体の美容を心身両面から考える総合美容」の意味合いを表すものとして「エステティック美容」、また、「エステティック美容を行う総合美容院」の意味合いを表すものとして「エステティック・サロン」のように使用されている。
そして、頭の髪を対象にしたエステティツク・サロンの意味合いを認識させるものとして「髪のエステティックサロン」、或いは、「ヘアエステのサロン」の文字をみることができ、髪の毛のエステティツクの意味合いを認識させるものとして「ヘアエステ」の文字もみることができる。
そうとすれば、本願商標は、「ヘアエステ」の文字を普通に用いられる方法をもって書してなるものであるから、これより、「頭髪の美容、髪の毛の美容」の如き意味合いを容易に看取させるものと判断するのが相当である。
そして、本願商標の指定商品は、「頭髪用化粧品」と補正されたところ、この商品は、頭髪の美容と健康のために、上記のようなエステティック・サロンにおいて使用されるばかりでなく、家庭においても使用されているものと認められる。
そうしてみると、本願商標をその指定商品「頭髪用化粧品」に使用するときには、これに接する取引者、需要者は、本願商標をして頭髪用の商品であること、つまり、商品の品質、用途を表示したものと認識するに止まるものであって、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、また、上記商品以外の商品に使用するときには、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるものというのが相当である。
したがって、本願商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない。
なお、請求人は(出願人)は、本願商標は、昭和62年以降今日まで、雑誌、業界紙に大々的に広告し、周知著名となっている旨主張し、商標法第3条第2項に該当するとして証明書を提出しているが、これらの証明書に書された証明事項のみでは、実際に使用している商標が如何なる態様なのか、実際に使用している商品がどのくらい生産され、譲渡されたのか等が、具体的に把握できないから、これら証明書のみによつては商標法第3条第2項の要件を具備しているものとは認められない。
よって、結論のとおり審決する。